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被害者・学校法人京都朝鮮学園の弁護団コメント

2021年3月30日

判決確定を受けての

被害者・学校法人京都朝鮮学園の弁護団コメント


2017年名誉毀損事件

学校法人京都朝鮮学園 告訴・犯罪被害者支援 弁護団

(弁護団事務局長 冨増四季)


 学校法人京都朝鮮学園を被害者として2017年に発生した名誉毀損事件については、昨年12月の上告棄却決定により有罪判決が確定した。

 有罪とはいえ、その判決理由や量刑の不当性は著しく、裁判所自身が積極的に差別に加担している印象すら与える内容であった。すなわち、①事実認定における「専ら公益」目的の認定、②懲役刑を避け罰金とした量刑評価のいずれにおいても、その内容は常識的な市民感覚に反するもので、不当性が明白であった。反差別といった運動論的要素を捨象して客観的な法律論としての評価に徹する場合においても、判決の事実認定(①)は、現行法や判例・通説的な解釈に照らし失当であり、その量刑(②)は、服役後の再犯に対する通常一般の量刑判断の傾向から乖離していた。

 今後の同種ヘイト事案において、公正公平な犯罪被害救済を実現する司法制度を構築していくためには、本件の一連の経過につき、犯罪被害者救済の法律実務のあり方という観点からの徹底した分析と議論が求められる。そして、本件の不当な結論が、主として刑事手続の運用の問題性によってもたらされたことを明らかにしておくべきであろう。すなわち、司法の結論を決定づけた最大の要因は、一審・京都地裁判決を受けた直後の場面における、京都地方検察庁の不控訴の判断にあったというべきである。そして、これは実体法の問題(例えば、ヘイト処罰立法の欠缺の問題)とはまた別個に議論されるべき、日本の司法制度に潜む深刻な問題性を呈している点を強調しておきたい。


 この点、被害救済という視点からの議論において、不当な結論を導いた出発点が一審・京都地裁判決の判断の誤りにあったことについては、ほぼ異論を見ない。とはいえ、日本の刑事訴訟制度が三審制を採用する以上、その制度設計において、一定割合で一審判決が判断を誤る展開は想定の範囲内ともいえる。つまり、この種の不当な一審判決については、訴訟当事者からの不服申立(控訴)により指摘され、後続の上訴審で破棄・是正されていくことが予定されている。

 本件の一審・京都地裁判決の不当性に対しては、即座に、日本社会の各方面から疑義や抗議の声が上げられた。控訴期限の数日前には既に地元紙の京都新聞社説において判決批判が示され、他の主要全国紙でも同じく批判的論調が出そろっていたという状況にあった。法律論としても、上述のとおり地裁判決の不当性は明らかであったことを併せて考えると、検察官控訴がありさえすれば、判決是正が十分に見込まれる世論状況にあったということができる。

 それにも関わらず、京都地検は、あえて控訴をしない対応とした。それがゆえに、その後の上訴審においても先行する不当な司法判断が是正されることはなく、そのまま判決確定に至るという顛末となった。



 京都地裁の判断内容を追認するかのような京都地検の対応は、被害者をして、改めて日本社会の差別性を再認識させるものとなった。

 重大な人権侵害が刑事司法で軽く扱われてしまう理不尽さを前に、被害当事者は過去、現在、未来にわたりヘイト被害から救済されないことへの絶望感を抱いた。このような二次被害の打撃は、実際の事件からの衝撃に匹敵し、見方によってはそれを超えるものであった。そして、その衝撃を与えた主体が公的な司法・行政機関であったことを、私たちは重く受け止める必要がある。本来であれば日本社会の良識を体現すべきこれら機関は、本件において、事件対応の流れを決定付ける要所々々で二次被害をもたらす対応・判断を行っている。公的な司法機関が、あろうことか反差別を求める一般市民の声や世論の流れに反してまで、差別を是認し許容するかのような対応を選択する要因がどこにあるのかという点について十分な関心を向ける必要があるように思われる。我々は、起訴された犯罪行為の過激さや挑発性がゆえに、ともすれば差別加害者個人に対する非難・糾弾のほうに目を奪われがちになるが、そうした個別検討とはまた別に、司法を含め社会制度に組み込まれた差別というより大きな問題について、適切な検証と統括を行うことを忘れてはならない。


 本件の一連の経過をとおして、ヘイトクライム(増悪犯罪)への法的対応は、検察官の適切な裁量行使に依存していることを再認識させた。検察官の裁量行使の代表的な場面として常に注目される起訴・不起訴の場面と同様、不当判決に対する検察官控訴もまた、極めて重要な役割を果たす。これらの裁量権行使が、日本社会に蔓延する差別偏見に影響されることなく公正明大に行われなければ、マイノリティの犯罪被害からの救済は果たされない。

 一般的な運用からすれば、明らかに訴追されあるいは控訴されるべき事案であるのに、被害者がマイノリティとなると軽く扱われ、被害の深刻さが適正に評価されない ―― 仮にそのような実務慣行が日本の刑事司法にはびこっているのならば、これは司法機関が差別の罪を犯していることに外ならない。そして、あたかも朝鮮学校に対する日本の差別行政と歩みを揃えているかのように評価せざるを得ない。

 遺憾ながら、本件の一連の経過は、こうした疑いを強めるものとなっている。制度的差別という視点を基軸に、実務及び学問の専門分野を横断して各方面からの徹底した分析と、効果的な被害救済体制を実現する司法制度の構築に向けた議論の進展を切に望む。我々弁護団も引き続き、本件の事件対応の経験・教訓を将来に生かすべく、できる限りの努力をしていく決意である。

以上

(参考: 学園コメント のほうも、ぜひご参照ください)



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