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概念図~「クライム」「スピーチ」の範囲の関係

更新日:6月20日


日本では、「ヘイト・スピーチ」「ヘイト・クライム」の定義が整理されず、

混乱したまま議論されている状況が続いてきました。 これが、京都第一初級学校襲撃事件が問いかけている

いくつかの重要な問題提起に関心が払われない一つの要因となっています。

そこで、以下に図解して整理してみました。 よろしけばぜひ、ご一読ください。

ヘイト・クライム: 

現行法に違反する犯罪行為が、人種差別的動機に基づいて行われるもの。

→ このなかには、表現行為として行われないため、

   「ヘイトスピーチ」とはならないものも、含まれます。

ヘイト・スピーチ:

人種、皮膚の色、世系又は民族的若しくは種族的出身に基づく属性につき、政治的、経済的、社会的、文化的その他の生活分野における平等の立場での人権及び基本的自由を認識し、享有し又は行使することを妨げ又は害する目的・効果を持つ表現行為。

→ このなかには現行の刑法上の犯罪行為にまで至り、

  警察捜査や訴追対象とされるような「ヘイトクライム」となるものもあります。

  (上の図では、スピーチの水色と、クライムのピンクが重なりあう部分)

条約との関係

さて、ここで、上記図の「現行法違反」のレベルと、人種差別撤廃条約が、各締約国に対し、犯罪とすべきと考えているレベルとを比較してみましょう。本来、条約の考え方に従えば刑罰化を義務づけている範囲の全てが、日本法で犯罪としてカバーできているわけではありません。 これが条約違反ではないか、と問題視されてきたわけです。 条約が犯罪とすべきと考えているラインを上記概念図に書き込んでみると、以下のようになると思います。

あれ?と思われた方もいらっしゃるかもしれませんね。

この線引きでは、ヘイトスピーチの領域のたった一部分しかカバーできていないので、

おかしいんじゃないの?

条約は、ヘイトスピーチ全体を処罰せよ、といっているんじゃないの?と。

実は、ヘイト・スピーチにも様々な態様があるなかで、

条約上、刑事処罰をもって禁圧すべき、と考えられる領域は割と狭いんです。

師岡康子著「ヘイト・スピーチとは何か」46頁にも説明があるんですが、

CERD(ラバト行動計画、一般的意見35)の考え方は、ヘイトスピーチを

① 犯罪を構成する表現

② 刑法で罰することはできないが、民事裁判や行政による制裁が正当になされうる表現

③ ①や②の制裁対象にはならないが、

  寛容、市民的正接、他者の権利の尊重から憂慮すべき表現 

の三つに分類して、①だけは刑事規制しようよ、ということなのです。

なので、今回の図解での線引きは①部分でしていて

ヘイトスピーチ全体として見ると、割と限られた範囲、ということになるわけです。

ここでカバーされない②、③だって、

被害者からしてみたら、ものすごく大変な衝撃なんですが、

そこは何とか、刑罰法規とは別の手だてを考えないといけない、というのが条約の考え方。

(例えば、在特会代理人弁護士が法廷でした発言は

 傍聴席の学校関係者を大きく傷つけ動揺させました。

 正に、ヘイト・スピーチの一種と考えるべきだと思いますが、

 それでも、条約の考え方をもってしても、②か③にしかならず、

 これを刑事規制することは難しいし、

 ましてや、法廷での裁判官の訴訟指揮で制限しうるものでもないと思われます。

 ↑これは、あくまで私見。ここは弁護団のなかでも議論があるかもしれません。)

それから、人種差別撤廃条約の規定があったとしても、

それだけでは日本における「ヘイト・クライム」の範囲は影響を受けません。

2015年時点において、日本の国内法として犯罪とする立法がないのに、

「条約違反の人種差別行為は全て「ヘイト・クライム」なのだ!」という言い方は

国際的に通用している一般的な用語の使い方としては、不正確なので

気をつける必要があります。

法律の新設・改正と、クライム範囲の拡大

それでは、近い将来の20xx年に、条約の要請に沿う形で、新しいヘイト規制立法(禁止法による犯罪の新設)ができたとしましょう。これを緑の線で書き込むと以下のようになります。刑罰対象の範囲が拡張されるわけです。

この場合、新たに規制対象となった行為は、「ヘイトクライム」を構成することになります。

以下の図では、サーモンピンクの「ヘイトクライムに追加された部分」がこれにあたります。

20xx年新法の施行後に、この領域の行為が行われたとすれば、これはれっきとした犯罪です。

そのときこそは、きちんと警察が動くのか、という、

    「クライム」としての問題提起

    (こちらのブログ記事をご参照ください。)

をすべき、となるわけです。

全く同じ行為であっても2015年時点にはできなかった問題提起が、

20xx年にはできるようになったわけです。

このように、元来、「ヘイト・クライム」 という概念は、適用される法律が改正されて犯罪とされる行為の範囲が変われば、それに連動して対象範囲も変わってくる、そのような流動性を持った概念として理解すべきではないかと思っています。 

もう一点、国が違えば適用される法律も変わってくるわけですから、

全く同じ行為であっても、ヨーロッパではヘイト・クライムとなる行為が、

アメリカではヘイト・クライムにはならない、ということもありうるわけですね。

(以前のブログ記事で紹介した、以下の一覧も併せてご覧下さい。)


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※ 2024.5.16 改訂履歴:  ①質問の番号をマンガ冊子「あなたと私とヘイトスピーチと」巻末(p.26)のQ+Aページに対応させました。②Q4の質問分に下線部を加筆 (はじめに)この冊子でQ&Aをまとめるにあたって、大切にしようとした視点、基本的な考え方などがあれば、...

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